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損失補てん
有価証券などの取引で、あらかじめ損失を埋め合わせる約束はしていないものの、損失発生後に証券会社が穴埋めすること。

1989年11月に発覚した大和証券の大口顧客に対する約100億円の損失補てん問題をきっかけに1989年12月、大蔵省が証券局長通達を出している。

通達によると、「事後的な損失の補てんや特別な利益提供も厳に慎むこと」として、事実上これを禁じている。法律上の根拠はないため、政府は、証券取引法に罰則規定と合わせて盛り込むことを検討している。
損失保証
有価証券などの取引で、顧客が損失を出した場合、証券会社が顧客に、あらかじめその損失の一部あるいは全部の損失部分を埋め合わせすることを約束すること。

証券取引法50条第1項3号で、証券会社、その役員および使用人がそうした約束をした上で勧誘する行為を禁じている。また、日本証券業協会の規則でも同様行為を禁じている。違反した場合は、免許停止、業務停止などの行政処分を受ける。
営業特金
資金を有価証券で運用、利益を現金で返す「特定金銭信託」の略称が「特金」。投資家が運用法を指示できるが、資産は信託銀行が管理する。運用アドバイザー役の投資顧問会社は証券会社系が多い。

このため、実質的に証券会社に運用を一任した形となる。証券会社が事実上、運用する「特金」を「営業特金」と呼ぶ。

1989年末の大蔵省の通達により、整理を迫られ、野村証券は「清算で顧客とトラブルが生じ、解決金が必要となった」などとして、損失補てんの一因になったことを認めている。
ワラント債
一定の期間内に新株の発行を請求でき、事前に決められた価格で新株を買い取ることができる権利(ワラント)がついた債券のこと。

起債時点の株価を基準に買い取り価格が設定されるため、発行後株価が上がれば、割安で株式を手にすることができる。

今回の証券会社各社による一連の損失補てんでも、特定客に優先的に割り振り、結果的に損失の埋め合わせの“道具”とされていたケースも発覚している。
透明性
証券会社は、株式公開や証券発行の世話をする「幹事証券」として、企業と結びついている。また、企業は大口の投資家でもあり、証券会社にとっては上得意客だ。証券各社は企業との「取引関係の継続のため」(山一証券など)損失補てんをしていたと話している。

大蔵省は1990年末、「5%ルール」を導入、大口の投資家や「仕手筋」の情報を公開するなど、市場の透明性向上に力を入れている。損失補てん問題は、特定顧客優遇という証券界の体質とともに、市場の透明性に疑問を投げかけたものとして海外からの批判も多い。
<日本の株価操作などをめぐる動き>
年月日 概要
1988年7月26日 協同飼料株価操作事件(1972年)で東京高等裁判所は協同飼料、協同飼料社長らに有罪判決。
1990年6月21日 「日新汽船」株のインサイダー取引(証券取引法違反)で金融会社前社長を証券取引法違反の疑いで警視庁が書類送検。インサイダー取引初の摘発。
1990年8月9日 国際航業の株買い占め、乗っ取りに絡んで藤田観光株の株価操作を行った仕手集団「光進」の小谷光浩代表ら2人を、東京地検特捜部が証券取引法違反の疑いで起訴。(1991年7月19日逮捕)
1991年5月1日 マクロス(旧谷藤機械工業)の不祥事公表前に自社株を売却したマクロス専務を、インサイダー取引容疑で東京地検特捜部が摘発、在宅のまま起訴(1991年7月26日)。大蔵省の告発による初のインサイダー取引摘発。
1991年7月25日 衆院大蔵委員会。広域暴力団稲川会の東京急行電鉄株買い占めで野村証券に株価操作の疑い。告発を受けて、東京地検が捜査中のことが明らかに。